福利厚生を検討する際、企業ではさまざまな判断が求められます。
法的にどこまで整備が必要なのか、任意制度を導入すべきかどうかなど、判断に迷う場面も少なくありません。
その中でよく挙がるのが、福利厚生に関する次のような疑問です。
| ・福利厚生がないと違法になるのか ・どこまで整えておけば法的に問題はないのか ・採用や定着に影響するのか |
結論から言えば、任意の福利厚生制度がないこと自体が直ちに違法になるわけではありません。ただし、社会保険や労働保険など、法律で対応が求められている制度は別です。また実務では「制度があるか」だけでなく、採用や定着にどう影響するか、そして制度をどのような考え方で設計するかが重要になります。
本記事では、法的に押さえるべき最低限のラインを整理したうえで、福利厚生がない場合のデメリットや、制度が形だけになってしまう理由、そして設計の考え方について解説します。
まず押さえるべき福利厚生の最低ライン
法定福利厚生と法定外福利厚生の違い
福利厚生は大きく分けて2つあります。
- 法定福利厚生:法律に基づき、事業主側の対応が求められるもの(社会保険・労働保険など)
- 法定外福利厚生:法律上の義務ではなく、会社が任意で設計する制度(食事補助、住宅関連、レジャー等)
ここを混同すると、「福利厚生がない=違法」と短絡しやすいのですが、実務ではまず、法定の範囲が満たされているかを確認することが重要です。
未整備でも違法にならないケース
「法定外福利厚生(任意制度)」がないこと自体は違法ではありません。問題になりやすいのは、加入・届出が必要な保険が未対応のケースです。たとえば雇用保険は、所定労働時間が週20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがある労働者は原則加入対象とされています。
また、健康保険・厚生年金保険は、法人事業所や一定条件を満たす個人事業所では加入が義務づけられています。さらに、労働者を1人でも雇用する場合、原則として労災保険の適用事業となります。
これらを怠った場合、追徴保険料の徴収や罰則の対象となる可能性があります。
最低限整えるべき制度
最低限の整理としては、次の観点で「未対応がないか」を確認してください。
- 社会保険(健康保険・厚生年金)の適用と届出
対象となる事業所は加入・手続きが必要です。 - 雇用保険の適用と手続き
要件該当者の加入と、資格取得・喪失等の届出が前提になります。 - 労災保険を含む労働保険の加入・成立手続き
労働保険の成立・加入の考え方が示されています。
ここまでが法的に対応が必要な範囲です。
一方で、企業が任意で設計する法定外福利厚生については、導入自体は義務ではありません。
ここからは、この法定外福利厚生がない、または十分に機能していない場合に、企業にどのような影響があるのかを整理します。
福利厚生がない会社のデメリットとは
採用応募数への影響
福利厚生の有無は、求職者の応募判断に影響する要素の一つです。
株式会社マイナビが実施した「2024年卒 大学生就職意識調査」(2023年4月発表)では、企業の福利厚生について「勤務地・仕事内容・給与と同程度に関心がある」と回答した学生は63.4%にのぼりました。

これは、福利厚生が勤務地や給与、仕事内容と同じように比較対象として見られていることを意味します。例えば、勤務地や給与が近い企業を比較する際には、福利厚生の内容が応募先を選ぶ判断材料の一つになると考えられます。
ただし重要なのは、「制度名の数」だけではありません。求職者は、求人情報や企業サイトなどで確認できる範囲の中で、「自分に関係がありそうか」「実際に使えそうか」といった観点で福利厚生を判断しています。
定着率が下がる可能性
福利厚生は、利用されることで初めて従業員の定着に影響します。
2025年10月にカロリパークスで実施した意識調査(全国の福利厚生制度を持つ企業勤務者533名対象)では、法定外福利厚生があることで「長く働きたい気持ちが高まる」と回答した割合は、オフィスワーカーで66.5%、現場ワーカーでも52.5%でした。

一方で、制度があっても利用されていない場合、こうした影響は生まれません。福利厚生は“存在”ではなく“利用”によって定着に影響する要素といえます。
従業員満足度が上がりにくい
福利厚生は、導入しただけでは従業員の評価にはつながりません。実際に利用されて初めて、「役に立った」という実感が生まれます。
同調査では、過去1年間に法定外福利厚生を一度も利用していない割合が、オフィスワーカーで32.9%、現場ワーカーで46.5%でした。

これは、制度があっても利用が発生していない層が一定数存在することを示しています。利用されていない制度は従業員にとって価値を感じにくく、結果として評価や満足につながりにくくなります。
法定外福利厚生の設計を始めるときの考え方
ここまで見てきたとおり、法定福利厚生は法律で定められているため、企業が自由に設計できる余地は大きくありません。社会保険や労働保険は「整っているかどうか」が重要であり、差別化の対象ではありません。
一方で、採用や従業員満足度に影響を与えるのは、主に企業が任意で設計する法定外福利厚生の部分です。食事補助、住宅関連、レジャー支援、自己啓発補助などは、その代表例です。
しかし、ここで誤解が起きやすいのは、「制度を増やせば評価が上がる」という考え方です。実務では、制度数を増やしても利用が伸びないケースが少なくありません。理由は単純で、制度は“存在”ではなく“利用体験”によって価値が決まるからです。
そのため、法定外福利厚生を設計する際は、次の3つの視点を起点に考えることが重要です。
「誰に、どの場面で使われるか」を具体化する
まず考えるべきは、制度の内容そのものではなく、「誰が、どの場面で使うのか」です。
たとえば、現場勤務が中心の企業で、PC操作を前提とした申請フローを設計すると、それだけで利用ハードルが上がります。子育て層が多い企業と単身層が多い企業では、利用されやすい制度のテーマも異なります。
ここで整理すべきなのは、以下5点です。
・雇用形態(正社員・パート・アルバイトなど)
・職種(現場職・オフィス職)
・年代構成
・家族構成
・日常的に発生する支出や行動
対象者と利用シーンが具体化できていない制度は、利用率が伸びにくくなります。
「利用頻度」を意識して設計する
法定外福利厚生は、利用頻度によって定着のしやすさが変わります。年に数回しか使わない制度は、従業員が存在を思い出す機会が限られます。その結果、周知を継続しなければ利用されません。
一方、日常的な支出や行動と接点がある制度は、利用機会が自然に発生します。利用が繰り返されることで、制度の存在感が社内に定着します。
重要なのは、「豪華かどうか」ではなく、「利用が継続して起きるかどうか」です。
「運用負担」まで含めて設計する
福利厚生のコストは、補助額や利用料だけではありません。申請確認、証憑チェック、問い合わせ対応、周知活動などの運用工数も含まれます。運用負担が重い制度は、次第に周知頻度が下がり、利用率が落ちる傾向があります。担当部門の負担が増えれば、制度改善の検討も後回しになります。
そのため、制度設計の段階で、以下3点を明確にしておく必要があります。
・誰が管理するのか
・どのように利用状況を把握するのか
・問い合わせ対応はどう整理するのか
法定外福利厚生は義務ではないが、採用・定着には影響する
法定外福利厚生は義務ではなく、導入していないこと自体が違法になるわけではありません。まずは社会保険や労働保険といった法定福利厚生が適切に整備されているかを確認することが前提です。
そのうえで、福利厚生がない、または十分に機能していない場合、採用や定着、従業員満足度に影響が出る可能性があります。重要なのは制度の有無ではなく、従業員にとって実際に利用される設計になっているかどうかです。
福利厚生の導入や見直しを検討する際は、「誰が使うのか」「どの場面で使われるのか」「継続的に利用されるか」といった観点で整理することが重要です。
カロリパークスでは、日常の行動に組み込むことで自然に利用が発生する福利厚生サービスを提供しています。サービスの概要や活用事例は資料にまとめていますので、比較検討の材料としてご確認ください。


